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出産記 【陣痛編】

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【破水編】 の続き



産科の病室が満室だったものの、
同じフロアの小児科病床が何とか空いていたので、
「とりあえず、仮で、ここにどうぞ」と、そちらに案内されることとなった。

広さは、一ベッドあたり4畳ほどのスペースでさほど広くない上に、
2人部屋の相室で、隣のベッドとはカーテン一枚だけで仕切られており、
半個室で広いはずの産科の病室に比べると、明らかに病室としてのレベルは劣っていた。



さて私はというと、深夜4時を回ったあたりから、ようやく微妙な腹痛を覚え始め、
間隔を計ってみると、それは意外にも、ぴったり10分間隔程度で訪れていた。

「前駆陣痛=間隔バラバラ」、「本陣痛=等間隔」 という認識があったので、
「おや? これはもしかしてもしかすると本陣痛??
 確かに痛いっちゃ痛いけど、全然我慢できるレベルだし、
 まさか私って痛みに相当強いタイプなのかしらうふふ」などと、
しばし楽観的に構えていたが、しばらくすると、空いていた同室のベッドに、
同じく前期破水したと思しき妊婦さんがやってきて、
カーテン一枚隔てた隣から 「あきらかに現在本陣痛進行中」 的な、
穏やかではないうめき声がひっきりなしに漏れ聞こえてきたため、
うめきのうの字も出てこない自分はやっぱり本陣痛ではないのではと思い知らされた。

その考えは正しかったようで、等間隔だったはずの痛みは、
だんだんと間隔が空き、朝になるころには痛み自体がすっきり消え去ってしまった。
隣の陣痛妊婦さんは、7時ごろに陣痛室が空いたとのことでそちらへ移動していった。



朝食の出された8:00頃には、痛みもなく、
「なぜ私はこんなに健やかなのに入院しているのだろう」と
思わざるを得ないほどの元気満々ぶりで、
産前用のショボい食事内容に文句を垂れながらも完食し、
それでもまだ空腹状態だったため、
「早くお昼にならないかなぁ」と考えながら、余裕で昼寝にうつつを抜かす有様だった。



そして、その待ちかねていたはずの昼食が運ばれてくる頃合から、
急転直下、事態は猛スピードで急展開を迎える。




12時過ぎ、昼食が来たことによって昼寝から目覚めたものの、
同時に、腹部を襲い始めた鈍痛を感じ、私は起き上がれずにいた。


明け方の時よりずっと痛い気がする……
だけどやっぱり間隔不定期な気がする……
ていうかごはん食べたい……
でも産前食だからまたショボい内容なんだろうな……
とりあえず内容チェックだけしてみるか……
あれ、ちょっとまって、なんかやっぱり痛い、
え、すごい痛い、あれ、これ、なんか、あれ……


昼食に対する欲望を捨てきれずに燻っていた私を突如襲った、
今までとは明らかに一線を画すフィールドの痛み。

それでも前駆陣痛だったら嫌なので、しばし様子を見たのち、
「これはいよいよもうヤバイ」という状態になったところで、
昨今の妊婦必携の超便利ツール、「陣痛アプリ」を起動。

一番最初の記録は12:22からスタートしているので、
実質、私の陣痛はこの時刻から始まったと考えて間違いないだろう。

アプリによると、痛みの継続時間はおよそ1分、間隔はだいたい2分弱だった。


あれ……
いきなり2分間隔スタート?
陣痛って10分間隔とかからはじまるんじゃなかったの??
ていうかこれってもう陣痛室とか分娩室とか行かなきゃいけないんじゃないの??

などと思っている間にも、
突如始まっただけのことはあってスパートがかかるのも猛スピードだったらしく、
いかにも「お待たせしました、これが本陣痛です」といった様相の、
今までの人生で経験したことは到底無い激しさの痛みに見舞われ始めた。



本来であれば、徐々にやってきて次第に勢いを増していく類のものだと思うが、
私の場合は、訪れたと思ったら既に全力全開最大勢力、
最初からクライマックスとはまさにこのこと。

「あれ?」と思ってから「出る!!!」という感覚に至るまでの所要時間、
およそ10分。
自分が「痛みのあまり、我を忘れて叫ぶ」というのは、
事前に何度陣痛のイメージをしてみたところで、考えづらいことだったが、
実際その場面になってみると、もう叫ばずにいるほうが無理という状況だった。


隣のベッドも空いていたので運よく個室状態となっており、
前夜病院まで送ってくれた家族に関しても、私の
「陣痛くるまでは20時間ぐらいかかると思うよ」という超適当発言を真に受け、
その日の夕方までは見舞いに来ない予定になっていたため、
完全に一人きりの空間で、思う存分、痛みにのた打ち回らされることとなった。

しかし2分ごとに襲ってくる痛みの最中、
「ちょっと待てよ、あれだけ読んだ陣痛ブログのほとんどに、
 『陣痛の時は、熟練の助産師さんに腰をさすってもらったり、
 テニスボールを使っていきみ逃しをしてもらったりして、本当に助かった』という
 情報がわんさかあったはずだが、明らかに陣痛が来ている今、
 なぜ私は一人きりなのだろう、冷静に考えたら、ここは病院なのにこれは変だ」
ということにふと思い当たり、陣痛開始10分の時点でナースコール。



既に痛みの波は2分間隔な上、
はたから見ても私の苦しみぶりはおそらく切羽詰まっているだろうから、
当然、子宮口の開き具合をチェックし、
開きが良いようであれば陣痛室、
もしくはもっと良ければ分娩室まで案内してもらえるに違いない。

そう思い、0.1秒でも早い助けを求めて一人で七転八倒していたというのに、
何故かナースコールをしてから5分近く誰もやってこないという鬼の仕打ち。
憎悪すら混じる恨み言を無意識に口にしだしたあたりで
ようやくやってきた助産師さんに、藁にもすがる思いでありのままの状況を伝えた。


「はーい、とりあえず、赤ちゃんの心拍計りますね~、
 ……うん、赤ちゃん元気ですね~。
 じゃあ、もうちょっと間隔短くなって我慢できなくなったらまた呼んでね~」


と、にこやかに去っていく助産師。



え……

もう……

今の段階でこれ以上まったく我慢できないんですけど!!
たぶん子宮口相当開いてるような気がするんですけど!!



そう思いつつも、
「もしかしたら私が『我慢できない』などと弱音を吐いているこの状態は、
 陣痛全体でいったらまだまだ序の口なのかもしれない、
 助産師さんがああいうということは私はまだ我慢しなければいけないのかもしれない」
という、未知の陣痛に関する恐ろしい可能性も頭をよぎり、
ひとまず、”もうちょっと間隔短く”なるまで様子を見てみることにした。
しかし正直いって、この時点で既に
「何かが出てくる」気配が私の腹部には満ち満ちていたのである。



それは、陣痛後半線に巻き起こる、赤ちゃんを生み出すため発生する”いきみ感”。
これはなかなか猛烈な衝動で、身体が勝手にいきんでしまうものだが、
子宮口が全開になっていない段階では、
それ以上子宮口が開かずお産が進まなくなったり、
胎児が窒息状態になるといった危険が存在するため、
なんとかそれに耐える、「いきみ逃し」という耐え忍びを行わなければいけない。
(読み漁った分娩ブログによる知識)


助産師が去った瞬間から、
私の叫び声の9割は、「出る!出る!もう出る!!」という台詞に変わった。
上述の通りの、
「助産師さんに、お尻をテニスボールで押してもらっていきみ逃しした」
という、分娩ブログであまりにも頻出する具体例を目にしていたため、
「いきみ逃し」は、その場面になったら助産師さんが手ほどきしてくれるだろうとしか
思っていなかった私は、もうろうとする頭で、
とりあえずお尻のあたりを押さえてみたものの、当然のようにほぼ効果はなかった。



「もう出る」感を、どう頑張ってもそれ以上抑えられそうになかったので、
先ほどのナースコールから5~6分後という速さで、
助産師さんに「まだこんなレベルで我慢できないとかいってる……」と
白い目で見られても構わない覚悟の上、再度助けを求めた。

おそらく”5分ぐらい前に陣痛が始まった人”という連絡情報の元、
余裕綽々でやってきたのであろう、先ほどとは違う助産師さんは、
ベッドの上でお尻を押さえている私を見てギョッとした。

それもそのはずで、
お尻を押さえる = 胎児の頭が下がってきている = 出産間近なのだから、
「5分前に始まったヤツがなんで??」と、
彼女に混乱状態を巻き起こしたのも当然だ。

あわてて子宮口の開きをチェックするため、駆け寄ってくる助産師さん。

下着をはがしたその瞬間、


「えっ……うわー……あらら……ごめんね……ごめんなさいね~……」


何故か謝られる私。
ふと見ると、大惨劇直後といわんばかりのダイナミックさで、
大量の血が流れ出てベッドを赤く染めていた。

そして、彼女はおもむろに病室のナースコールで応援を要請。


「車椅子持ってきてくださ~い」



車椅子!?

あれ?
”陣痛の合間をぬって分娩室まで歩かされる”という、
分娩あるあるの苦行イベントは??
(分娩ブログによる知識)


「車椅子持ってきましたー、って、えっ……(赤いベッドを見て固まる)
 もしかして全開ですか??(子宮口)」
「超全開だね~。もうすぐそこだね~。」


全開になるの早くないかな!!!!

そして、一体何がすぐそこなのかな!!!


助産師たちの会話に反応したい気はやまやまだったが、
この時の、すでに息も絶え絶えの私には到底不可能な話だった。


「分娩室空いた?」
「まだいっぱいですね」
「Nさんってさっき産み終ったよね。どいてもらおっか~」
「どいてもらってきま~す」


分娩室満床とか!!!!

ていうか産んでから2時間はそのまま休まないといけないんじゃないの!!
どかされるNさんは大丈夫なの!!
別に私は悪くないけど、無理させてごめんNさん!!




この時点で陣痛の間隔は30秒~1分程度になっており、
その合間をぬって、ガクガクになりながらもなんとか車椅子に移動。


「貴重品は大丈夫かな? あ、携帯は持って行ったほうがいいよ~」


分娩室に携帯要らなくないかな!!

盗難を心配してくれてるのかもしれないけど、
この状態でわざわざ携帯取るのに動くぐらいなら、
いっそのこと盗まれたほうがマシなんですけど!!



しかし言われるからにはと、わけもわからぬままとりあえず携帯を所持し、
車椅子へ座り、さあいよいよ分娩室へ。
この時点の私は、もういきみ逃がしも半分できなくなり、
感覚としては”いますぐにでも出る”といっても過言でなく、
もはや一刻の猶予もなかった。


「今、分娩室のベッド空けてもらってるから、ちょっとこのまま待ってね~」


だったらベッド空いてから車椅子に移動すればよかったんじゃないんですか!!

Nさんこちらの都合で本当に申し訳ないけど早くどいて!!
もう!! 無理!! 出る!!





そうしてやっとの思いで分娩室の分娩台へ乗れたのは13:15頃。
ただひたすらいきみたい一心の私は、ここまで来れたら百人力。

分娩室も混雑中だったため、
先生がやってくるまでしばし待たされるという、
ダメ押しの鬼仕打ちもあったりはしたものの、
あれだけ「出る!出る!」と騒いだだけのことはあって、
「いきみOK」の許可が出てからは、私のやる気も上がり、もう速い速い。


ものの数回(だったような気がする)いきんだだけで、
分娩室に入ってから30分後の13:45には、
無事に元気な男の子と対面することができた。


結果、陣痛が始まってから出産に至るまでの所要時間、約1時間30分。


初産婦の平均所要時間は12~15時間という世界なので、
おそろしいまでのスピード出産であったことがこの数値からもよくわかる。
ただし、スピード出産=安産、というわけではないということを、
ひとまず声を大にして言っておきたい。


ちなみにこの日の病院は、近年稀に見るほどの出産混雑日(後でそう聞いた)
だったらしく、ただでさえバタバタしているところに、
予期せぬ進行の速さで伏兵として登場した私の存在は結構迷惑だったろうと思う。

陣痛の最中に、内心、病院への罵詈雑言を並べ立てていたことを、
後になって少しだけ反省した。





次回、まとめの【産後編】へ続く。




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